No.45 / 高吉克郎
'87 ヨシムラSuz. GSX-R750 (鈴鹿8耐仕様 / Gグッドフェロー & 高吉克郎)
30台半ばにして腰痛でバイクに乗れなくなった元サンデーライダーです。スーパーカーブームからの流れで車のレースが好きだったものの、GSX-R750や500γが出始めたあたりからバイクも好きになりました(両方とも乗ってました)。モデラー歴は小学校1年からですが、その作品はほぼ素組み。高校卒業後今まで2-3年に1台F-1かバイクを作る程度でしたが、「あの」ガンプラブーム以来(中学1年時引退)の本格的モデラー再デビューとなります。
今回の製作にあたって、候補だった車両が4車あるとBBSで書きました。実はこのGSX-R「フルスクラッチは無理」という理由で真っ先に候補から落選した車両なの です。 maxさんの「男は…」の一言で「駄目でもともとやってやれ!!!」と気合を入れ て製作に踏み切ることになりました。

ちなみにこのとき落選した車両というのが写 真 にもある「ドゥカティ888スーパーバイクレーサー」と「ドゥカティ916」を改造した フォガティかコーサーの乗ったレーサー。そして「隼1300」か「ヨシムラX-1」を改 造したヨシムラ隼X-formulaレーサーだったのです。
しかし、初期型GSX-R750は400と500それぞれ2台も乗り継いだスクエア4ガンマの次に 実車に乗った車種であり、レースでも使用した私にとって思い入れの多い車体です。
まずはフルスクラッチといえどもある程度流用の効くパーツは使用したいと思い、 押入れの奥に入れっぱなしの未製作キットや外回りの途中で見かけたおもちゃ屋さん などにあったキットをかき集めます。
さしあたって思いついたものといえば OW-01からはFフォークとFブレーキキャリパー、Fブレーキディスク(形状が似ている、キャリパーはほぼそのもの) 250γからはRブレーキキャリパー、Rブレーキディスク、キャブレター(取り付け は逆だが加工で何とか、キャブはこれを元に複製&4連用に加工) 3型刀からはエンジン(実車も油冷エンジンの原型ですから) ドゥカティ888からはホイールとタイヤ(幅がオーバーサイズだけど…) その他手持ちのジャンクパーツなどから利用できるものはすべて利用するつもりです。
ちょっとここで車両の解説などを…。
題材として選んだGSX-R750は史上初の750ccレーサーレプリカとして市場に登場し て3年目を迎えた油冷エンジン搭載のスズキGSX-R750をベースにスズキ本社が車体を 作り、ヨシムラがエンジンを作るという70年代後期から続く協力体制の下に作られた マシンです。  
1987年の8耐は3連覇を狙うホンダ、悲願の初優勝を狙うヤマハ、耐久王者のスズ キ(フランスチーム)、83年以来のワークス活動を再開するカワサキと国内4メーカー のワークスチームが久しぶりにそろったレースとなりました。しかしレースが始まっ てみると序盤のうちにヨシムラのエースチームであるシュワンツ/大島組(#12)がエン ジントラブルで早々と脱落し、独走態勢を築いていたはずのホンダのエース、
ガード ナー/サロン組もサロンの2度の転倒で4時間を迎えるころにリタイヤ。ヤマハ、カワ サキともにエースチームが小さなトラブルや予定したライダー(平忠彦)の欠場などで 思うように順位を上げられないでいるうちにトップに立ったのが前年のノービス鈴 鹿4耐チャンピオン高吉克郎とギャリー・グッドフェローの乗る#45ヨシムラGSX-R750 でした。しかし2位のヤマハの猛追がここから始まり、交代をせずに最後のピットイ ンを終えたYZFのケビン・マギーが初めての8耐を走るヨシムラのアンカー高吉をじわ りじわり追い上げたものの逆転不可能と思われたラスト5分。周回遅れを抜きそこなっ た高吉が第2コーナーで転倒。ぼろぼろになりながら再スタートし2位になったものの その瞬間ヤマハ8耐初制覇が達成されたのです。
 ちなみに私はこのレースの模様を直後に出るライディングスポーツやレーシングヒー ローの臨時増刊で知り、映像で見ることが出来たのは翌年大学に進学しレンタルビデ オで見ることが出来てからです。


 まずは資料です。ちょうど手元に1987年あの「ラスト5分転倒」の名ドラマを演出 したGSX-R750そのものを解説したバイカーズステーション誌(ちなみにこの号には 隼X-formulaレーサーの詳細もありました)ほか、ビデオや写真には載せきれないほど の資料がありますので、あとは自分が乗って整備していた記憶が頼りです。これでも う手抜きは出来なくなりました(泣笑)。  製作過程のイメージも出来、予定通 りなら2月初旬には「あとは色塗り」という状 況に持っていけそうです。

 本格的にやるのだから環境も大切です。以前ヨシムラが3台だけ製作したコンプリー トバイク「トルネード1200ボンネビル」が製作の最初に「メカニックたちは卸し立て のツナギを身にまとい、神聖な気持ちで製作に取り掛かった」という故事(?)に習い、 私もそれに近い気持ちで挑みたいと思います。削り、切断作業が多くなるということ もあり近所のプレカット工場から梁に使う集成材のきれっぱし(といっても乗っけて あるタバコの大きさから見てもかなりでかい)をもらってきて作業台は確保です。あ とは母親の和紙人形制作のために整えてあった道具をふんだんに使うだけ。
 さぁ、いよいよ次回からは製作記を披露できそうです。

まずはエンジンの製作に取り掛かります。なんといっても80年代後半から発売されたレーサーレプリカの中でエンジンが一番威張っているのはGSX−Rなんですから、何はさておきエンジンです。最初考えていたのはエポキシパテなどでブロックを作り、フィンの間を針などで削る。もしくは3型刀のエンジンを加工という目論見です。 しかし!!!事は簡単にいきません。写真の後ろに黒い壁のように見えるガレージに転がしてあったGSX−R750のシリンダー(FISCOのストレートでエンジンブローしました(笑))を基に寸法を出してみると…フィンの間=0.35mm、フィンの厚み=0.08mm! 考えに考え抜いた挙句最後の手段として厚みの違うプラ板をサンドイッチにして表現してみることにしました。

ちなみにこの油冷エンジン特有ともいえる細かいフィンですが、3型刀やE4などに積まれている空冷4バルブエンジンを基にしているのです。生産にむけて設計している際、外観のデザインが今までの空冷エンジンみたいなものだったため「あの」横内悦男氏が「新しい仕組みのエンジンなのだから外観も何か新しいものが欲しい。こんなデザインにしてみろ」と設計スタッフにポルシェのシリンダーを見せたのがヒントになったそうです。ちなみに最近までポルシェの水平対抗エンジンってシリンダーは空冷だったんですよ。(油冷のアイデアも元をたどればP-51ムスタングでありポルシェのエンジンなのです)

さて話を戻しましてシリンダーにあたる部分は横幅が上に行くにしたがって広がり、シリンダーヘッドに当たる部分は前後長が上に行くにしたがって広がります。そのためシリンダーとヘッドをあわせて26枚26サイズのプラ板を切り出し積み重ねていきます。ちなみにこのとき使ったプラ板はフィンに0.14mm、フィン間に0.3mmを使用しました。ちょっとスケール的にはおかしくなるのですが全体は大体実寸に近い数値になりました。これにシリンダーヘッドのフィンののないところにあたる部分を加えてスケール感確認のよりどころ(理由は後述します)にしている3型刀のフレームとクランクケースに乗っけてみます。なんとなくいい感じです。

いくら油冷の原型エンジンとは言ってもそれは現車の話ですね。引き継いだのはピストンの裏側に高圧のオイルを吹き付けて冷やす「ピストンジェットクーリング」くらいで、8耐をはじめとする世界耐久シリーズに勝ちに行くためにすべて新設計でした。もちろんこのエンジンだって当時750クラス世界最軽量 に貢献しているのでかなりコンパクトになっているはずです。シリンダーを元に割り出した大きさから比べると明らかに3型刀のクランクケースも横幅などは大きいし、第一スターターモーターやジェネレーター(3型刀のキットは省略されている!!)が取り付けられる部分も大きく違うのです。これなら加工するより新たに作ってしまったほうがよさそうです。というわけでクランクケースはパルサをブロックにして大まかな形を出し、再び3型刀のフレームに乗っけてみます。ちなみに実車3型刀のカスタムの方法としてエンジンを大金かけていろいろいじくるよりも油冷エンジンを載せ変えてしまうという方法があるそうで、いろいろなサイトを見て回ってそういうカスタムをしている写 真を見つけ出し、今回のスケール感チェックの参考にしています。

しかし…このあとボルトなどの細かい彫刻は出来るのか…。

これが暫定的に出来上がった油冷エンジンです。雰囲気は出ていますか? 結局このあとに取り付ける予定のドゥカティ888から移植する乾式クラッチのディスク部分以外完全新造となりました。隣においてある3型刀のエンジンより背が高くなっているのは、オイルパンも一体で製作しているせいです。
そのエンジンを前から見たところです。切削作業などで持っているときにせっかくのシリンダーフィンが曲がってしまっています(T-T )。ヘッド部分の左右のT字型の突起ですがこれはヘッドに大 量に吹き付けるオイルをカムチェーントンネルを通 じて落下させるとかえってオイルに気泡が入ってしまうためにオイルを集めて専用の通 路で戻すためのオイル受けとなっています。もちろんこのあと、クランクケースに続くクランク状に曲がったオイルリターンパイプを製作しなければなりませんね。
本物の87GSX-R750を見てきて以来一気に製作スピードがダウンしました。それがよいか悪いかは置くとして「そのまま流用すればいい」と思っていた部分がだんだん許せなくなってきました。これまでエンジンはエンジンでとブロックごとに製作するつもりでいたものがこっちのパテが固まるまでこっちをという具合になりつつあります。(普通 はそうですよね?) この写真ではフロントフォークのボトム部分に手を入れだしています。87年の8耐マシンの隣に展示されていたスプリント用の86型との大きな違いが見えたため手を入れなければと思った部分です。クイックリリース用に左右形状が違います。どこまで違いを表現できるか挑戦です。
いい加減フレームも製作を開始しないとフォークができてもスイングアームやリアショック、ほかにもマフラーやタンク、カウル類にも製作範囲が及ばなくなってしまいます。 最初の計画ではプラ棒を大まかにカットしてつなぎ合わせて…なんて考えていたのですが、87年当時にプライベーターがやっていた1100のフレームを流用というマシンならいざ知らずこのマシンのフレームは泣く子も黙る天下のスズキ本社謹製品です。翌年フルモデルチェンジされた市販88GSX-R750の原型ともなったもので、上から見るとものすごく複雑なRを描いてステアリングヘッドからスイングタームピボットをつないでいます(maxさんは現車に乗っておられたのであのきれいなフレームはご存知ですよね?)。そんなわけでアルミの針金を用いて形を出してそれをプラ棒などでつなぐハイブリット作品となりました。
ちなみに、このフレームが枕にしている物体は型取り粘土「型思い」です。今回写 真に収めていませんが、250ガンマのキャブを基にして4連のTMXキャブレターを製作するのに使っております。
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